脳梗塞後のリハビリプログラム:オーダーメイドの重要性

特に脳卒中の後遺症に悩む方々にとって、効果的なリハビリテーションを行うためには、その人の状態に合わせたアプローチが欠かせません。歩行の安定性を例にとっても、麻痺や筋力、バランス、認知機能など、さまざまな要因が個別に異なり、それらがどのように影響を与え合っているかは一人ひとり異なります。リハビリは、こうした要素を的確に評価し、適切な介入を行うことで初めて効果が得られます。
一方で、インターネットで効果があるとされるトレーニングを、個別性を考慮せずに取り入れることには大きな危険性とデメリットがあります。たとえば、自身の筋力やバランス能力に合わない動作を行うと、転倒や怪我のリスクが高まります。さらに、不適切なトレーニングを繰り返すことで、運動パフォーマンスが低下し、リハビリ効果が得られないばかりか、逆効果となる可能性もあります。また、効果を実感できなかったり、失敗を繰り返すことでモチベーションが下がり、リハビリ自体が難しくなる場合もあります。
この記事では、歩行を例にリハビリにおいて個別性が重要である理由と、それを考慮しないリスクについて詳しく説明します。適切な評価と指導を受けることで、効果的なリハビリを実現し、歩行や日常生活の改善を目指しましょう。
歩行能力に影響を与える要因
脳卒中後の歩行能力は、さまざまな要因が複雑に絡み合っており、転倒リスクや歩行パフォーマンスに直接的な影響を与えます。以下に、脳卒中の重症度や身体機能に基づく主要な要因を簡単にご紹介します。
脳卒中の重症度
脳卒中の重症度が高いほど、転倒リスクは増加します。以下の要因が特に歩行中の安全性に影響を与えます。
- 運動麻痺: 運動麻痺の重症度は歩行能力に直結する重要な因子です。重度の運動麻痺では身体を思い通りに動かすことが困難で、膝折れや躓きが生じやすく転倒のリスクを大きく高めます。また運動麻痺の重症度によって歩き方や歩行速度なども強く影響を受けます。
- 感覚麻痺: 感覚麻痺があると、足の裏や関節の位置感覚が損なわれるため、体勢の把握が困難になり、歩行中に転倒するリスクが高まります。特に足の感覚が低下していると、バランスを崩しやすくなります。
- 高次脳機能障害(認知機能): 認知機能の低下は、歩行中の周囲の環境や障害物などの危険な状況を回避する能力が損なわれ、予期しない転倒を引き起こす可能性が高まります。
関節可動域
関節可動域の制限が大きいと、歩行中の動きが制限され、バランスを崩しやすくなります。特に股関節や膝、足首の可動域が狭いと足を前に出す動作がスムーズに行えないため、地面に足が引っかかりやすくなり、転倒のリスクが増加します。また関節可動域が十分でないと、歩幅が狭くなり、歩行速度が遅くなります。
筋力
筋力の低下は、歩行時の支持性を不足させ、バランスを保てなくなるため、転倒のリスクが高まります。特に下肢の筋力(股関節、膝、足首の筋肉)が弱いと、歩行中に体重をしっかり支えられず、歩行が不安定になります。
バランス能力
バランス能力の低下は、歩行中に転倒するリスクを直接的に高めます。バランスが悪いと、立ち上がる、歩く、方向転換する際に体が不安定になりやすく、バランスを崩して転倒する可能性が増します。
持久力
持久力が低下していると、疲労によりバランスが崩れやすくなり、転倒リスクを高めます。
まとめ
歩行ひとつを例にしても複数の要因が存在することが分かったと思います。安定した歩行を獲得するためには、運動機能、筋力、バランス、認知機能、呼吸機能などさまざまな因子が関与しています。これらの因子は、個人ごとに異なり、それぞれの状態や関係性も一人ひとり異なるため、個別のアプローチが求められます。
まず、これらの因子がどのような状態であるのか、そしてそれらがどのように関係し合っているのかを正確に評価・鑑別する必要があります。この評価を通じて、歩行に影響を与えている原因が特定され、それに基づいて最も効果的なリハビリテーションプランやプログラムが立案されます。
こうしたプロセスを適切に進めるためには、専門的な知識と経験が不可欠です。リハビリテーションの専門家は、複数の因子を総合的に評価し、患者一人ひとりに最適なプランを提案することができます。専門家の指導のもとで、個別化されたリハビリプランを行うことで、歩行能力の回復がより効果的に進むことが期待できます。
私たちは評価・リハビリメニュー作成を行っております。ご自身の状態や適したリハビリメニューを知りたい方はお気軽にご相談ください。
出典
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