脊髄小脳変性症(SCD)のリハビリ10選
1. 脊髄小脳変性症とは?
脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration;以下SCD)は、小脳や脊髄に障害が生じ、運動機能が徐々に低下する進行性の神経疾患です。SCDには様々なタイプがあり、病変によって多彩な症状が見られることが特徴です。そのため歩行やバランス、協調運動の障害が主な特徴で、進行するにつれて日常生活に大きな影響を与えます。症状の進行を抑え、身体機能を維持するためには、早期からのリハビリが重要です。
2. 脊髄小脳変性症の症状
SCDの主な症状には、運動機能の低下とバランスの障害が挙げられますが、それだけに限らず、多様な症状が現れます。
– 運動症状
– 運動失調(身体の動きが不安定で、協調が難しくなる)
– 歩行障害(歩行が不安定で、転倒しやすくなる)
– 構音障害(話すことが困難になる)
– 手足の震え(細かい動作がしづらくなる)
– 非運動症状
– 嚥下障害(飲み込みが困難になる)
– 視覚障害(目の動きが不安定になり、物が二重に見えることがある)
– 自律神経障害(血圧の変動、排尿や排便の問題など)
- 感覚障害(手足の痺れ、温かさや冷たさに対する鈍さ、ボディイメージの低下など)
- 精神症状(うつ症状、記名力、遂行機能障害など)
3. SCDのリハビリの必要性
現在根本的な治療法は確立していません。⑴
背景としてSDCは40型以上の病型が報告されており、特定の遺伝子型には、それぞれ異なる治療法が必要と考えられています。治療法は現在も研究中の状況であり、治療法の開発が待たれています。
そのためリハビリテーションが患者の生活の質向上に重要な役割を果たしています。
4. リハビリで期待される効果
脊髄小脳失調症(SCA)のリハビリテーションに関する研究は、機能や移動能力の改善に有効であることを示しています(2)(3)。そのため定期的なリハビリテーションやトレーニングを行うことが重要です。これらのリハビリテーションは、バランス、協調、歩行、姿勢、筋力を向上させることに焦点を当てています。
理学療法、作業療法、言語療法、管理栄養士による栄養指導などの支援的な管理オプションが含まれます。
ある研究では、感覚失調症や小脳失調症の14人の患者が全身協調トレーニングを4週間受けた結果、治療後にSARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia:手足、体幹運動のコントロールを測るテスト)スコアが平均4.4ポイント改善し、運動パフォーマンスとバランス能力の向上が見られました。特に小脳失調症の患者においては、1年後もその効果が持続しました。(2)また、別の研究(3)では、SCA6の患者20人を含む42人が、4週間の入院リハビリテーションを受けた後、SARAスコアが平均2.8ポイント改善しました。これらの結果は、リハビリテーションが患者の日常生活の機能向上に役立つことを示しています。
5. リハビリ方法について知っておくべき10個の方法
①ストレッチ
筋肉の硬直やこわばりを和らげ、関節の可動域を広げるためのストレッチを行います。特に、長時間同じ姿勢を続けると筋肉が硬くなるため、定期的に行うことが重要です。
② 筋力トレーニング
体幹や脚の筋力を鍛えることは、歩行や立ち座りといった基本的な動作を支える上で重要です。特に転倒防止には、下肢の筋力を維持するトレーニングが効果的です。
筋力の維持・向上はバランス能力低下を代償して、基本動作能力や生活動作を維持するために重要です。バランス運動や生活動作練習と組み合わせて、筋力トレーニングを行うと良いでしょう。
③バランストレーニング
SCDの患者様はバランスを崩しやすいため、転倒を防ぐためのバランス訓練が重要です。平衡感覚を高めるために、様々な姿勢での重心移動や不安定な場所での姿勢保持などのバランス練習が推奨されます。
例
・座位、四つ這い位、膝立ち位、立位の各姿勢で、姿勢保持、前後左右の重心移動、動作練習などを行う。
④持久性運動
症状が進行して歩行が不安定になると自ずと運動する機会が減少し、運動耐容能(体力)が低下します。体力を維持。向上するために持久性運動が勧められます。
負荷量は運動を終了した時の疲労感を指標にすると良いです。
はじめは少し楽な低強度から、慣れてくれば「少しきつい」位までを意識して見ましょう。
一般的には機器を使用した持久性運動は5分から最大20-30分間行われる場合もあります。
例
・歩行練習
・手すり付きのトレッドミル
・自転車エルゴメーター
⑤ 日常生活動作の練習
着替えや食事、トイレ動作など、日常的な活動に必要な動作を繰り返し練習します。これにより、生活の自立度を維持することが目指されます。
動作必ず⑴開始の姿勢⑵中間姿勢⑶終了姿勢があります。
それぞれの生活動作でどの姿勢が苦手なのか、確認すると良いでしょう。
練習の基本は以下の通りです
・それぞれの姿勢保持練習
・姿勢から姿勢に変換する部分的な練習
・動作全体の反復練習
⑥ 巧緻動作練習
手や指の細かな動作のトレーニングを行います。箸の使用やボタンの留め外しなど、生活の中で必要な手指の動作を改善します。
⑦ ADLの工夫
日常生活で直面する困難を軽減するための工夫や支援具の導入を提案し、自立度の向上を図ります。
例えば屋内の動線に沿って手すりや家具を把持して移動できるよう配置する。トイレや廊下などの狭い場所では壁に寄りかかって移動を行うなどです。
また症状が進行すると自律神経障害の影響で起立性低血圧が問題となります。起立性低血圧は時には意識消失、転倒などにつながる危険性があります。診察などで指摘がある場合は、腹部や下腿部に弾性包帯やストッキングを装着することや、急な起き上がりや立ち上がりは避けるように情報共有することが大切です。
⑧ 構音訓練
言葉が不明瞭になる患者様に対して、発音練習を行います。特に、ゆっくりと話す練習や、音節ごとの発音を改善する訓練が有効です。
⑨ 嚥下訓練
嚥下障害がある場合には、飲み込みを支援するための訓練が行われます。嚥下を促進するための筋肉を鍛える運動や、実際の食事を使った練習が含まれます。
⑩ 呼吸筋トレーニング
SCDの進行に伴い、呼吸機能が低下する場合もあります。胸郭を広げ、深い呼吸を促す訓練を行い、呼吸筋の働きをサポートします。
6. まとめ
– 脊髄小脳変性症は進行性の神経疾患で、運動やバランス機能に大きな影響を及ぼします。
– 適切なリハビリテーションを実施することで、症状の進行を遅らせ、身体機能の維持や日常生活の自立度を保つことが可能です。
– リハビリは、患者様の生活の質を向上させるために重要な役割を果たし、家族や介護者にとっても大きな助けとなります。
また、当事者やそのご家族の方向けの情報サイトの活用により、病気に対する適切な知識を得られます。共通したお悩みが見つかるだけでも助けになるかと思います。よろしければ確認してみてください。
脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の当事者や支援者様むけのサイト (外部リンク:全国脊髄小脳変性症 多系統萎縮症 友の会)
脊髄小脳変性症のリハビリは、症状の進行を抑えるだけでなく、患者様の心身の健康をサポートします。早期からの取り組みをぜひご検討ください。
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