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片麻痺の方が装具なしで歩くために必要なこととは

脳卒中後の後遺症により歩行のために装具が必要となることがあります。
装具は適切に使用することで歩行の安定性や速度が向上するといったメリットがある一方、できれば装具を外して歩けるようになりたいという希望を持つ脳卒中当事者の方も多くいらっしゃいます。
この記事では脳卒中当事者の方やそのご家族に向けて、装具を外して歩けるようになるためのステップを理学療法士の視点で解説します。

装具が歩行に与える影響とは

脳卒中の発症後、運動麻痺や感覚障害、痙縮、バランス能力低下といった症状が出現し、半数以上の方に歩行の障害を認めるとされています。


特に足関節の背屈筋(つま先を持ち上げる筋肉)の筋力低下は脳卒中後に頻繁に観察され、歩行を妨げる主な要因の1つとされています[1]。足首の背屈筋の筋力低下により麻痺側の足で身体を支えることが不安定になります。また、麻痺側の足を前方に振り出す際につま先を地面に引きずってしまい転倒する危険性が高まります。そのため、リハビリテーションでは脳卒中者の歩行制限を改善するために下肢装具の使用が推奨されています[2]。


ここでは下肢装具が脳卒中者の歩行に与える影響を調査した研究についてご紹介します。


紹介する研究ではシステマティックレビューと呼ばれる手法を用いて、過去の様々な研究結果を統合し結論を述べています。


今回ご紹介する研究は19件の先行研究を分析した結果となります。その結果、下肢装具の使用により下記の項目の改善を認めました[3]。



  • 歩行速度:歩く速さ。装具の使用により歩く速さが向上する。

  • ケイデンス:1分間あたりの歩数。装具の使用によりケイデンスが増加する。

  • 歩幅:1歩あたりの距離。装具の使用により歩幅が増加する。

  • 動的バランス(Timed Up & Go Test):椅子から立ち上がり、3m歩き、再び椅子に戻って座るまでの所要時間。装具使用により所要時間が短くなり、動的バランスが向上する。

  • 歩行自立度:介助を要さずに独立した歩行をどの程度行えるか。装具の使用により介助量が軽減し、歩行自立度が向上する。

  • 初期接地時の足関節背屈角度:麻痺側の足が床に接地した瞬間の足首関節角度。装具使用により足関節背屈角度が向上する。

  • つま先離地時の膝関節屈曲角度:麻痺側のつま先が床から離れた瞬間の膝の屈曲角度。装具使用により膝関節屈曲角度が向上する。


上記のように下肢装具を適切に使用することは歩行能力(速度・安定性)や歩容(歩き方)によい影響を与えることが多く、やみくもに下肢装具を外すことはおすすめしません。下肢装具の変更や使用の有無についてはリハビリの専門家の意見を踏まえて検討いただくことが必要です。



装具を外すために必要なこととは

下肢装具を使用することについて様々なメリットがあることをお伝えしました。その点をよくご理解いただいたうえで、次に下肢装具を外すために必要なことについてお伝えさせていただきます。



➀装具歩行と装具なし歩行を比較する

下肢装具の使用により歩行の速度や動的バランスが向上することについてお伝えしましたが、このようなメリットが得られない方もいらっしゃいます。そのような方は麻痺側の下肢機能や歩行能力が十分に向上しており、下肢装具の恩恵を得られないケースと考えられます。


「装具を使用した状態」と「装具を使用していない状態」で10mを歩く速さや歩数を比較したり、動画を撮影して歩き方に変化がないかを確認しましょう。下肢装具使用の有無で計測結果に差がない場合には下肢装具を外せる可能性が高まります。


屋内の歩きやすい歩行路のみで比較するのではなく、屋外や階段など様々な環境で違いを確認しましょう。また、歩行距離が長くなることで麻痺側の足が持ち上がりにくくなり、つま先をひきずるなど歩行が不安定になることが散見されます。


下肢装具を外して歩行を試す際は必ずリハビリの専門家や付き添いの方と一緒に行い、安全には十分配慮した状況で実施してください。



➁段階的に装具を外していく

脳卒中後の下肢装具には様々な種類があります。素材(金属・プラスチック・カーボンなど)、足関節の継手の有無、装具の大きさ(足を覆う広さ)などにより固定性が異なってきます。

一般的には足関節の固定性の観点から次のような段階を経て装具を段階的に変更していき、最終的には装具を外した歩行を目指すことが多いです。最初から装具なしを目指すのではなく、まずはご自身が使われている装具よりも固定性が1段階低い装具で歩ける状態を目指すとよいと思います。


金属支柱付き短下肢装具



プラスチック短下肢装具(足関節継手なし)



タマラック短下肢装具・ゲイトソリューション(足関節継手あり)



オルトップ短下肢装具



装具なし



➂装具で補っている身体機能・歩行能力の低下を改善する

下肢装具は脳卒中後に生じた症状による歩行能力低下を補うための道具です。そのため原因となる症状や歩行能力を改善することで装具なしで歩ける可能性が高まります。


下肢装具が必要となる原因は主に内反・尖足・反張膝です。


①内反・尖足



「内反」とは足首が内側に曲がった状態です。


痙縮と呼ばれる筋肉の緊張異常により足が内側を向いた状態で硬くなってしまいます。


内反になると歩行中、麻痺側の足で支えるときに親指側を地面に接地させることが難しく歩行が不安定になります。場合によっては足首の捻挫を生じてしまい危険です。


「尖足」とは足首を曲げられず、つま先が下に下がった状態です。



つま先を持ち上げる筋肉の運動麻痺や痙縮が原因で生じます。内反と尖足が組み合わさった状態を「内反尖足」と呼びます。


尖足になると歩行中、麻痺側を前に振り出す際につま先を持ち上げることが困難となり、床面に引きずってしまい歩行が不安定になります。場合によってはつまずきによる転倒の危険性が高まります。


内反や尖足の状態を改善するために足首を固定する必要があります。


そのため歩行中に下肢装具が必要となります。


 


②反張膝(はんちょうしつ)



「反張膝」とは麻痺側の足で支える時に膝が過剰に伸び切ってしまう状態です。


足関節の背屈筋の筋力低下や痙縮により、歩行中に下腿を前方に移動できなくなることで生じます。


反張膝になると膝がカクッとロックされた状態となり、膝の曲げ伸ばしがスムーズにいかないため歩行が不安定となったり、膝が伸び切ってしまう動きを繰り返すことで膝の痛みなどが生じることもあります。


反張膝を改善するために歩行中に下腿の前方移動を引き出す必要があります。そのため下肢装具が必要となります。


 


原因は?


内反・尖足・反張膝に共通した原因として足関節背屈筋の筋力低下と痙縮があげられます。


そのため足関節の機能を改善することで装具なしで歩けるようになる可能性が高まります。


 


足関節背屈筋の筋力を向上させる方法


足関節背屈筋の筋力を向上させるために反復してつま先を持ち上げる運動を行います。


ですが、独力ではつま先を持ち上げる運動を行うことが難しい方も多くいらっしゃいます。


その場合、電気刺激を併用しながら実施することで足関節をしっかりと動かせるケースが多くあります。


(電気刺激については下記も参照下さい。脳卒中リハビリにおける電気刺激療法とは?


また動かすことが難しい場合はミラーセラピーと呼ばれるリハビリ手法もおすすめです。


ミラーセラピーは鏡を用いた錯覚を用いて脳の再教育を誘導することで足関節の運動機能を回復させるリハビリ手法の一つです。


(ミラーセラピーについては下記も参照ください。脳卒中リハビリにおけるミラーセラピーとは?


 


・足関節の痙縮を軽減させる方法


痙縮を軽減するための方法として推奨度が高いものはボツリヌス療法です[2]。こちらは医師による治療が必要ですので痙縮でお悩みの方は医師に相談されるとよいと思います。


リハビリではふくらはぎのストレッチ、電気刺激、振動刺激などが効果的です。


(振動刺激については下記も参照ください。脳卒中リハビリにおける”振動刺激”とは?


このように、装具で補っている身体機能や歩行能力の改善には、目的に応じて選択をして実施していく必要があります。



まとめ

いかがだったでしょうか?


装具を外して歩けるようになりたいという脳卒中当事者の方は多くいらっしゃると思います。装具のメリット・デメリットを十分理解したうえで装具の使用や変更について検討することが必要です。


いきなり装具を外すのではなく、段階的にリハビリを進めていく必要があります。まずはお近くのリハビリの専門家に相談しながら進めていくことをおすすめいたします。


 



出典


  1. E Knutsson, C Richards. Different types of disturbed motor control in gait of hemiparetic patients.Bran.1979 Jun;102(2):405-30.

  2. 日本脳卒中学会:脳卒中治療ガイドライン2021、株式会社協和企画、2021

  3. Yoo Jin Choo 1, Min Cheol Chang. Effectiveness of an ankle-foot orthosis on walking in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis.Sci Rep. 2021 Aug 5;11(1):15879.


守屋耕平
執筆者

守屋耕平

理学療法士、認定理学療法士(脳卒中)、認知神経リハビリテーション士
回復期リハビリ病院で10年以上、脳卒中・脊髄損傷・骨折患者を中心にリハビリテーション医療に従事。認知神経リハビリの専門家。研究活動を行いながら、科学的根拠に基づくリハビリに加え、対象者自身が感じている身体の状態や感覚などの主観的側面を活かしたリハビリを実践。認知神経リハビリの研修会講師としても活躍。

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